FIELD NOTE KUSHIRO

北海道くしろ地方のローカルメディア「フィールドノート」のブログ

ある視点 ~釧路湿原に惹かれて FIELD NOTE 04 より

ある視点 ~釧路湿原に惹かれて

フィールドノートでも度々ご紹介している標茶町出身の映像作家、田中道人さん。その道人さんに影響を与えた、父であり、長年「旅の宿 六花」を営んでいた田中耕三さんに、釧路湿原に惹かれた理由、そして、釧路湿原を通して見えてきた釧路の在り方についてお話しをお聞きしました。

 

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釧路に来たのは昭和48年

―旅行で釧路に訪れた際、まだ整備もままならない未完成の街には葦が広がり、凄く寂しい雰囲気を受けたという田中さんが、その釧路に住もうと決めた理由とはなんだったんでしょうか?

 

最初はね、凄い嫌だったんですよ。旅行でこっち来た時に、凄い寂しい雰囲気をうけて。で、その時本当は釧路で泊まりたかったんだけど、逃げ出して阿寒の方に行っちゃったんですよ(笑)。「とってもじゃないこの雰囲気は」って感じだった。で、旅行中知り合った人が釧路に住んでたから、知床や阿寒行った帰り寄ったりしてたんです。それで、気を取り直して、釧路湿原を北斗の高台から最初見たんですよ。十月頃で、湿原ばーっと見た時に、全然何もわからないのに、妙に感銘受けるんですよ。はっきり言って、美しい風景でもなんでもないじゃないですか。その頃は湿原の知識なんて何もないし、これは何なんだろう?と思って。知床の山見たり、阿寒の山見たり、湖見たりした様な感覚とは全く違ってるんですよ。一面ただひたすら、ぶわぁーって葦があって。風景たって山は遠いし、川もよく見えるわけでもない。ただただ葦がある。でも、なんだか心に残るもんだから、なんだろな?と思ったのが、ここに住もうと思った理由でしたね。

 

お世話になった、種市 佐改さん

最初に僕が釧路来てお世話になった人が、種市佐改さん。この人は本当の意味での縁の下の力持ちで、最初にこの釧路湿原を国立公園にしてやっていけないか?って提案したのが種市さんなんですよ。最初の主旨は、観光中心じゃなくて保護を中心とした国立公園にするっていう事だった。で、誰の注目も浴びてないところだったからそれができたんですよ。これは、保護を重点に置いたものにするって言ったら、誰も文句は言わない。このまま聖地として囲って、釧路湿原を保護する。で通ったわけですよ。

それが、国立公園にすると人が来るから儲けようって人がでてくるじゃないですか。金儲けになると制限がきかなくなってくる。最初は誰もそこで商売してなかったんだから、なんぼでも規制かけられたんですよ。でもあえて、利用を中心にした訳だからね。今となってはそれで生活たててる人がいるから、規制しても色々問題がでてくる。

種市さん方が歯止めかけてる時はそういう風にならなかった。それは、金儲けしちゃったら結果的に俗化されるからダメだよって。

 

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漠然と惹かれたものの正体

―釧路に来た当時、釧路湿原を見て惹かれたものは何だったのか、答えは出ましたか?

 

答えは二年くらいして出てきました。これは自分の仮説なんだけど、我々は三億六千万年くらい前から陸上にあがったわけですよ。で、海から来るんだから、海でも川でもない所にしばらく居たと思うんですよね。それは、湿原みたいな所しかないと思うんですよ。そういう湿原を通って、僕らは陸にあがってきてる。だから、我々が今になって湿原を恋しく、愛おしく思うのかっていうのは、三億六千万年前の記憶ですよね。その記憶で凄く湿原に惹かれるんじゃないかと。

でも、せっかく惹かれてきた人を、遊びで終わらせるのはちょっとよくないですよね。湿原が何をしてくれているのかって事を知ってもらわなきゃ。

順番からいくと、まず湿原の定義【湿ったところにある草原】。で、そこの植物は低温って事もあって、枯れた時腐らずに植物が堆積されていく。それが泥炭なんです。

で、大抵は【湿原は植物由来の蓄積物の泥炭ができる】で終わっちゃうんですよ。そうじゃない。泥炭が腐らずに溜まってるって事にどういう意味があるのかを理解してないんですよ。

腐る時は酸化するから酸素を消費してしまう。だから、泥炭が泥炭のままにあってくれたら、二酸化炭素を酸素と炭素に分解してくれて非常に良いわけです。泥炭になってくれる事が酸素の備蓄に繋がるっていう事、そこに気が付いたら、湿原をなぜ保護しなきゃいけないかってのは自ずとわかると思うんですよ。泥炭が全てではないですけど、湿原は分解される事もなくそこでじっとして酸素を出してる。それを、人間は吸って生きてるんですから。大きな気持ちがあるところなんですよね、湿原は。だから、そういう気持ちを理解してあげたら、そっとしておくのが一番。じっとしといてあげるのが。

だから、泥炭になるって事は、酸素の備蓄に繋がるって事を理解してくれたら、全然違うと思う。

 

これからの事

―観光立国ショーケースや長期滞在など、なにかと注目が高まる釧路市ですが、これからの釧路市について何か思う事はありますか?

 

新しい何かつくるより、今あるものへの理解の方が先ですよね。考え方だけで進めるっていうのは、お金かからないんですよ。考え方だけなんだから(笑)。その人がそれを理解してくれたらそれでいい。そっちの方に行政でもなんでも働いていった方がいい。

物つくったって、必ずまた壊れるし。そうでない事ですよね。思索っていうか、人がどういう風に思ってくれるかっていうところ。元々、観光ていうのはその土地の光を観るって良い言葉なんですよ。光って何かって言ったら、その土地で生きてる人たち。旅行して、そこでイキイキしている人たちを観て、それで帰った後「北海道の釧路行ったらみんなこんな暮らししてて、それを日常生活で何かに活かしたい!」って思う。そういうもんだと思うんだよね。日本の場合、旅っていうじゃないですか。それはたぶんそういう事だったんじゃないかなって。

 

―今、釧路市に住んでいる人たちにとって、より良い過ごし方の提案はありますか?

 

考え方変えるしかないよね。自分はそんなに変われないから、受け取り方を変えるしか方法はないと思う。だから僕は、寒さが嫌だと思わないように氷の中に美を求めてるから。人工的じゃなく天然で見れるのは北海道だけですよ。冷凍庫の中で装置つくってさ、氷の写真撮る必要ないんだから。表にでれば、凍ってくれてて、その結晶のひとつひとつに目を通していけば、寒さなんてどうでもよくなる。もう、うれしくなる(笑)。その模様は同じものはなにひとつないしね。

 

―その他にも耕三さんから様々なお話しを聞かせて頂きました。

田中耕三さん、貴重なお話し、誠に有難うございました。

 

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田中道人(田中空撮)

北海道川上郡標茶町出身。無人航空機のドローンを活用し、故郷の釧路湿原を題材とした映像作品を制作している。最新作「UNIVERSE OF ICE 3」は父・耕三さんからインズパイアされて作った作品。こちらのURLで映像をご覧になれます。

http://vimeo.com/user29386388

 

旅の宿六花の亭主(2010年に営業は終了)

ラムサール条約を始め、釧路湿原とタンチョウヅルの保全において長年尽力に努める。

大観望(現細岡展望台)の発見者であり、名付け親。

また30年以上も湿原で撮り続けている氷の写真「氷の世界は地上の宇宙」は合成もレ

タッチも行わずに、氷の中に光が差し込む僅かな瞬間を捉えた誰も見たことのない世界(宇宙)。